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最高裁判所第三小法廷 昭和39年(あ)804号 判決 1966年4月12日

主文

原判決を破棄する。

本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

理由

弁護人遺水祐四郎の上告趣意について。

所論は、事実誤認と量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当らない。

弁護人渡辺大司の上告趣意第二点について。

所論の一において判例違反をいう点は、判文を通読すれば、原判決の「共謀」または「謀議」に関する解釈及び共謀共同正犯の成立要件に関する解釈が、引用の判例に抵触せず、また、本件共謀または謀議の認定が厳格な証明によってなされていることが自ら明らかであるから、論旨は理由がなく、所論の三において判例違反をいう点は、原判決の認定していない事実を前提とする主張であって採ることができず、その余の論旨は、事実誤認と単なる法令違反の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当らない。

同第三点について。

所論は、単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由に当らない。(なお、原判決が判示第一、第二の事実につき斎藤威夫の証言を採証したのは、他にこれを裏付けるに足る証拠が存在するためであることは、判文自体により明らかであり、所論の如き違法は存しない。)。

同第一点について。

所論のうち憲法三七条一項違反をいう点は、迅速な裁判を受け得なかったことを理由とする主張が適法な上告理由に当らないことは、当裁判所の判例(昭和二三年(れ)第一〇七一号同年一二月二二日大法廷判決、刑集二巻一四号一八五三頁)とするところであり、その余の論旨は、単なる訴訟法違反の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当らない。

しかしながら、職権をもって調査するに、原判決認定の第二の事実については、当初、昭和三一年六月一二日訴因2として「被告人は喜多方市寺町四七六四番地において衣料品商を営んでいた者であるが、昭和二六年度の衣料品の暴落等により業績振るわず経営頗る困難な状態に立至ったところ、予て自己に対し多額の不正融資をしていた喜多方農業協同組合専務理事斎藤威夫がその回収を急いでいる弱点に乗じ、旧い債務と共に返済するという口実等で同人から金員を騙取せんことを企て昭和二七年九月二四日頃喜多方市字一丁目四五三番地喜多方農業協同組合事務所において、右斎藤威夫に対し、仕事も順調だから儲けられる故、手形でもよいから貸してくれと虚構の事実を申し向け、その旨誤信した同人から額面四〇万円の約束手形一通を騙取した」旨の所為につき刑法二四六条一項に当るとして起訴されたものであるところ、昭和三六年六月二四日第一審福島地方裁判所会津若松支部に対し、検察官より「被告人は喜多方市字一丁目四五四三番地所在喜多方農業協同組合の専務理事として同農業協同組合の金銭出納保管など一切の業務に従事していた斎藤威夫と共謀のうえ昭和二九年九月頃前同所においてその業務上保管にかかる現金二〇万円を擅に小菅長五郎に対する借金の弁済として同人に交付して横領したものである」旨の所為につき刑法二五三条、六〇条、六五条に当るとして、訴因並に罰条の予備的追加の請求があり、同裁判所は、右請求を許可したうえ、右予備的訴因につき「被告人は、右斎藤威夫が被告人の業績をあげさせ、被告人に対する融資の回収を得たいと焦慮しているのに乗じ、同人に対し種々の利益を得て返済できる旨をといて次々と融資方を懇願し、同人の応諾を得、同人が前記組合の金員を同人の計算において浮貸するものであることを知りながら、同人と暗黙のうちに共謀のうえ、昭和二七年中前同人から前記組合専務理事斎藤威夫振出名義の金額四〇万円の約束手形一通を振出させ、これを担保に小菅春蔵から二〇万円をかりうけ、昭和二九年九月ころ、前同所において、右斎藤威夫から、その業務上保管にかかる金員中から現金二〇万円を擅に自己への貸付金として、右小菅春蔵の代理人小菅長五郎に支払わせてこれを横領したものである」旨の事実を認定し、業務上横領罪として被告人を処断したものであることが認められる。

そこで、まず、右本位的訴因と予備的訴因との間に公訴事実の同一性が存するか否かの点につき審究するに、両者は、その日時において約二年の開きがあり、対象において約束手形と現金との違いがあり、その金額も前者は額面四〇万円であるのに対し後者は現金二〇万円であり、犯罪の法律的構成において詐欺と業務上横領の相違があり、更に被告人と斎藤威夫との関係につき加害者と被害者の関係から共犯関係への移動があって、両者を訴因自体として比較するとき、殆んど何らの共通点を発見しえないばかりか、仮に前記第一審判決認定前段の事情に属する事実(前記事情を知っている斎藤威夫と共謀のうえ、昭和二七年中前同人から前記組合専務理事斎藤威夫振出名義の額面四〇万円の約束手形一通を振り出させ、これを担保に小菅春蔵から二〇万円を借りうけたとの事実)を媒介として公訴事実の同一性を考察するとしても、右媒介の事実は背任に問擬すべき被告人の所為を含むものと見られ、これと本位的訴因たる詐欺の事実とが公訴事実の同一性の範囲内にあることは認められるけれども、右背任の事実と予備的訴因たる業務上横領の事実とは併合罪の関係にあるものと解するのが相当であるから、結局、右背任と業務上横領、従って詐欺と業務上横領との間には公訴事実の同一性は存しないものといわざるを得ない。従って、本件詐欺の訴因に対して本件業務上横領の事実を予備的訴因として追加することは許されないのであって、第一審裁判所が検察官の右追加請求を許可したことは、刑訴法三一二条一項に違反するものというべきであるから、第一審判決が右違法の許可にもとづき本件公訴事実との同一性を欠く右予備的訴因の事実について審理判決をしたのは、結局刑訴法三七八条三号にいう「審判の請求を受けない事件」について判決をした違法があることに帰する。

しかるに、原判決は第一審判決を破棄して自判するに当り、前記予備的訴因の追加の許可を適法であるとして右訴因につき被告人を有罪としたものであることが判文上明らかであるから、原判決には本件第一審判決につき説示したと全く同様の違法があることになり、破棄を免れない。

よって、刑訴法四一一条、四一三条本文に則り原判決を破棄し、本件を仙台高等裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見により主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 横田正俊 裁判官 柏原語六 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎)

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